灯りのない暗い部屋で響く嬌声。小さな水音とすすり泣くような声が空気に溶ける。

「ん、ぅ……ふ、ッ」

寝台の上に仰向けに転がされたアリババは大きく開かされた脚の間に潜る手に涙を溢れさせる。やわらかな肌に多くの赤い痕跡を散らし、弱々しい息を漏らす彼の唇を奪う。髪を梳きながら口腔に舌で愛撫を施せば、途端にとろりと瞳が溶けていく。ちゅっ、と濡れた唇を吸い舐めながら後孔に突き立てている指を動かす。

「ゃ、ひ、ぃ…ッん」
「息を吐きなさい」

やんわりと胸元を弄り、ガチガチに固まった身体から力を抜くよう促していく。

「ぅ、う…もう、やめて…やめてください」

切れ切れになった哀願を聞きながら、それでも手を止めない自分は彼の目にどう映っているのだろうか。組み敷いた小さな身体を覆いながら首筋にキスを落とす。また一つ増えた鬱血を唇でなぞればアリババは敏感に反応して甘く鳴く。シンドバッドさんと掠れた声で呼ばれる度に降り積もる感情の名は…、

「ふ、ぁ…ッ」

熱に浮かされたように身を震わせ、指をくわえ込む後孔は少しずつ異物を受け入れていく。二本の指でそこを押し広げればアリババは首を振りながら艶やかに啼き出す。

「こうされるのは嫌か?」
「いっ、…ひっ、ぃ、ぁッ」

はくはくと口を開閉しながら必死に頷く彼に笑い掛け、指を増やして再び奥へと侵入を果たす。ぐちぐちとわざといやらしい音を立てながら解せばアリババはその両目からボロボロと大粒の涙を零し始めた。そんな彼を憐れだと思いつつも責めの手を緩めない自分のバカバカしさに知らず口許が歪む。体内に埋め込んだ指を軽く曲げてある一点を突いた瞬間、一際甘い嬌声を上げながらアリババは精液を吐き出した。肩で息を繋ぎながらびくびくと震える彼の後孔から指を引き抜けば、それにすら小さな悲鳴を上げる。頬を染め上げたアリババの目許に唇を落とし、ひくつく蕾に勃ちあがった自身の先端をあてがう。ぬるりとした熱を持つ剛直の感触にビクリと身体を跳ねさせたアリババは、諦めたようにゆっくりと目を閉じシーツをキツく握り締めた。その姿はまるで贄にされる清廉な少女のようにも見えて…ああならばさしずめ自分はそれを喰らう魔物か。おかしな想像にフッ、と息を吐きながら腰に手を添え先端を押し入れる。恐らく指とは比べものにならないであろう圧迫感を辛そうに…けれどひたすらに我慢し続けるアリババ。その健気な様子を見下ろしつつ細い肢体を深々と貫く。ぐちゅりと奥まで男の肉に犯される感覚にアリババは背を反らしてシーツを乱す。

「ん、っひ…ぁ、あッ」

痛みに喘ぎながらも絡み付いてくる内壁は従順に仕事をこなす。熱を淫らに飲み込み与えられる快楽に素直に啼くアリババはたまらなく可愛く、そしていやらしい。性交渉の経験が無い彼を引き返せない程の悦楽に溺れさせ、雄に支配される悦びを植え付けてやった。悲鳴のような声を上げて泣く癖に、最後まで抵抗らしい抵抗を見せなかった彼に酷く加虐心を掻き立てられたのを覚えている。意識を失う程の行いを働き、果たして次の日彼はどんな顔を自身に向けるのか。不思議な心持ちで待ってみればどうだ、起き上がれない彼に微笑みながら甲斐甲斐しく世話を焼けば、初めこそ強張っていた表情が次第に緩み最後にはいつものように笑ったのだ。

(なんてバカな子だ)

きらきら、きらきら、
世界の不条理とあらゆる混沌をその眼で見て尚あんな風に笑えるものなのか。

(例えば俺が彼を…、)

結局ソレを実践しても彼は彼だった。世を渡り知り、智と力を得るのは同時にそうした初心と純然たる粋を失くすこと…そうである筈だった。なのに、

「君はいつ思い知るのだろうね」

“誰かのために”で傷付いてしまうのなら、いっそそんなモノは捨ててしまえば良いのに。

(ああけれど)

その時にはきっと君は君で無くなってしまうのだろう。アリババ・サルージャという少年は“そう”であるからこその彼なのだから。…けれどそれならそれで構わない。自分にとって重要なのはそんな事では無いのだから。

(例えどんな道を辿りどんな君になったとしても)

シーツに散らされた金糸を一房すくい上げ、そっと口付ける。











「必ず、俺のもとへ帰っておいで」








夜闇はまだ、明けない。